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ペット豆知識No.30・その2-「熱中症」まずは冷やすこと、特効薬は無し-MRT「ペット・ラジオ診察室」7/2放送分

<7月2日放送分-熱中症->
 宮崎も6月9日に梅雨に入ったが、空梅雨なのか、晴天日も多く、気温が30度を超える日もある。先日は延岡で35℃を超える猛暑日もあった。最近は、住居内での高齢者の「熱中症」が報道されたり、先月も車内に子供2人を7時間も放置して熱中死させた事件(事故ではすまされない)があった。熱中症は晴れの日でなくとも、条件が整えば起こりうる。

●そもそも「熱中症」とはいかなるものか。高温の周囲熱に曝され、熱の放散よりも熱の産生が勝って体温調節が失われ、体温が顕著に上昇することで、細胞傷害が起こる症候群である。ほとんどすべての組織に傷害を与え、基本的には致死的な疾患である。重症度は深部体温の上昇の程度と持続時間による。高温による直接的な傷害は42.8℃で起こる。酵素の変質と蛋白の変性が見られる。体温が40.6℃という比較的低くても、持続時間が長ければ全身傷害の見られたとの報告もある。一方で、成書には46.5℃の高体温から完全に回復したの報告も一例ある。熱による細胞障害の程度には個体差が存在するかもしれない。
●熱中症は一年中起こりうるが、多くは気温が高く、多湿で、水分不足(欠乏)、換気不良の要因で起こる。
●41℃が2時間、42度が1時間持続すると死亡する可能性が高くなる。
●肥満や喉頭麻痺、上部気道閉塞、心疾患、中枢神経疾患、甲状腺機能亢進症、癲癇、、体調不良など医学的な要因、熱中症の既往歴のあるもの、毒素、薬物、興奮なども誘発要因となる。高体温に対するペットの順応性が低下した時に起こる。
●車内など換気が悪く、閉まりきった環境で起こりやすい。窓を閉め切った状態の車内では数分で危険域に達する。外気温が24℃で、窓を締め切った車に直射日光が当った場合、わずか20分で車内は48℃まで上昇する。短頭種や大型犬では1時間もしない内に死亡する。
●日中、アスファルトの40~50cm上(小型犬の頭の位置)は40~50℃、地面はそれ以上でパッドが火傷を起こす温度に達している。
●初期症状はパンティング(浅速呼吸・多呼吸)、流涎過剰、頻脈、粘膜の充血、血圧上昇などである。
●その後進行すると、頻呼吸、過換気、粘膜蒼白、脱水、吐血、血便排泄、メレナ、瞳孔散瞳(中枢神経のダメージがあれば縮瞳もある)、精神異常、中枢性の盲目、呼吸の苦悶、点状出血、筋肉の震顫、癲癇発作、虚脱、昏睡などが見られ、心肺停止となる。
●血液検査では、脱水の影響で血液が濃縮されるため、検査項目は高値を示すのが基本だが、腸管出血などで上昇しない場合もある。血小板減少が特徴的で、骨髄のダメージで有核赤血球がしばしば見られる。
●ほとんどが犬の疾患だが、猫では衣類乾燥機に閉じ込められて起こる。
●鑑別診断として、発熱性疾患の感染症を疑う必要があるが、重症の子宮蓄膿症や肺炎などでの発熱は、高くても40.5℃程度で、41℃を超えることは稀である。朝まで元気で、かつ体温が41℃以上の場合は「熱中症」が極めて疑わしい。
●すべての臓器や組織に影響する。急性腎不全、血管内凝固症候群(血液の凝固と線溶の亢進が同時に起こり、かつ肝臓での凝固に関連する蛋白の合成が低下する)が起こる。はじめは心拍出量の増大・全身の血管抵抗の低下が生じ、高体温の持続で拍出量の低下・低酸素症・低還流・低容量性ショックが起こる。中枢神経でも脳内出血や痙攣などさまざまな症状が出現する。消化器系では粘膜壊死などで菌血症や全身性炎症反応性症候群(SIRS)、胃・腸管内出血などの重篤症状が見られる。その他筋肉の融解(ミオグロビン尿)など・・・・・恐ろしい病態を呈する。
●熱中症には解熱剤は無効である。
●熱中症は致命的な状況であり、直ちに全身を冷却する。風呂(バスタブ)に入れるか、ホースで全身に水をかける。冷たすぎると、全身の血管を収縮させ、かえって熱の放散を妨げ、かつ熱の放散速度を遅くする。必要なら冷水で胃洗浄、あるいは浣腸を行うことを推奨する向きもあるが、実際はあまり実施されない。体温をできるだけ早く40℃以下にすることに全力を傾ける。その後は低体温にならないように注意し、冷却は中止する。
●41.6℃以上の重度の高熱あるいは意識が混濁するなどのショック下にあれば、冷却に加え、ショックと血管虚脱に対する治療を開始する。他の疾患のショック時と同じ速度(90ml/kg・体重/hr)で晶質液(リンゲル液)を点滴する。また永久的な臓器障害と血管内凝固症候群(DIC)の発症を防ぐため、糖質コルチコイドを投与する。ステロイド剤投与の是非に関しては、賛否あり。
●病院での治療は輸液・酸素吸入を常道とするが、その他(コロイド液、血漿、オキシグロビン、へパリン、H2ブロッカー、スクラルファート、プロトン・ポンプ・インヒビター)に関してはその都度考慮する。

※※※
 実際の熱中症は、例えば、夕方まだ日の暮れない時間にラブラドールを散歩で走らせたとか、朝雨だったので窓を閉め切って仕事にでたら、午後から晴れ、帰ってみたらフレンチブルがのびていたとか、いったケースが多い。
○対処策として、「熱中症」について十分認識し、注意を払う。
○部屋の換気や給水などに留意する。
○犬は汗腺がほとんど発達していないため、部屋を涼しくしなければならない。できれば室内飼いで、エアコンをつける。
○怪しいと思ったら自宅で直腸温(直腸温は深部体温である)を測り、40℃以上あれば病院へ連絡をとり指示を仰ぐ。同時に先ずは水風呂に入れるか、庭でホースを使い水をかける。その他頚動脈を冷やすため、氷嚢か氷を直接頸部にあてる。扇風機をあてるなど、できる限りの手段で、できる限り早く直腸温を40℃まで下げる。病院への搬送中も冷却を続ける。水はクールか生温い程度で、氷水は全身の血管を収縮させ、かえって熱の放散を抑えるため良くない。
○解熱剤は熱中症に無効なので、とりあえず座薬で様子を見ようなどと、絶対に考えないこと。
○病院では酸素吸入、輸液などの対症療法が主体であり、「熱中症に特効薬無し」を、肝に銘じておくこと。
○冷却処置で直腸温が40℃以下になり、見た目の症状が改善されても安心せず病院に行き、治療や指示を仰ぐこと。血小板が減少し、血管内凝固症候群となり、2~3日以内に腸管内で大量出血を起こし、死亡することも少なくない。
○最後に、ペット専用の体温計を常備しておくこと。かつ、体温くらいは嫌がらずに測らしてくれるペットに躾けておくこと。

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