アレルギー持ちの私は、年がら年中鼻炎との闘いである。というのも、アレルギー持ちであるにもかかわらず、獣医師になり猫、おまけに犬まで飼い始めてしまったからだ。普段は調子が良いのだが、換毛期(毛の抜けかわる時期)や過度のスキンシップ、掃除を怠るなどの理由で時折大変なことになる。
今回のテーマはこの「アレルギー」である。ご存知の通り、近年人のアレルギー患者は増加し、現在では全人口の約3人に1人が何らかのアレルギー疾患に罹患しているという。ペットにおいてもそれは当てはまり、「アレルギー疾患」は非常に多い。ただし、痒みがある=アレルギーと決めつけてはいけない。
●皮膚病の原因は数多く、例えば、細菌、真菌、寄生虫(毛包虫、疥癬、ノミ、ダニ、しらみ)、自己免疫性・免疫介在性、遺伝、先天性、ホルモン、角化異常、脂漏性、腫瘍などがあげられる。これらの原因と鑑別した上で初めてアレルギーと診断できる。
●アレルギーになりやすい犬種は多いものから順に、ワイヤー・フォックス・テリア、ウエスティ、柴、シー・ズー、フレンチ・ブルドッグ、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ビーグル・・・キャバリア・・・パグ、、マルチーズ、、ヨークシャー・テリア、ダックス・フントとなる。
(当病院で検査を依頼している会社において検査依頼件数の多いものから順に並べている)
●アレルギーの症状は様々であるが、人と類似している。
※皮膚症状:紅斑、掻痒(痒い)、脱毛、擦過傷、燐片(ふけ)、色素沈着、苔癬化、外耳炎、蕁麻疹
※呼吸器症状:気管支炎、喘息
※消化器症状:排便回数の増加、嘔吐、下痢
食物アレルギーは皮膚症状だけでなく、犬では約20~30%に消化器症状がみられる。猫においては皮膚症状よりも消化器症状の方が多く見られる、との報告もある。
※浮腫、アナフィラキシーショック(まれ)などがある。
※特徴的な症状としては、眼、口、脇などにおける皮膚病変(脱毛、紅斑など)、多発性の丘疹、マラセチア(真菌)の二次感染、外耳炎がある。
●若齢で発症し、これらの症状は加齢とともに悪化することが多い。
※具体的には環境因子によるアトピー性皮膚炎の発症年齢は、6ヶ月~6歳だが最も一般的な年齢は1~3歳である。一方、食事による食物アレルギーはどの年齢でも発症しうるが、食物アレルギーの約30%は1歳以下に発症する。
●治療は
※二次感染のコントロール:抗生剤、抗真菌剤の投与。
※シャンプー:皮膚の状態により2~7日毎にシャンプーを行う。シャンプー後に症状の悪化を認める場合もあり、シャンプーの種類(成分=薬用)の選択には注意したい。トリミングの際には薬用シャンプーを持参するのも皮膚トラブルを防ぐ良い方法であろう。自宅でシャンプーを行う場合には全身にすり込むように洗い、最低5分は保持する。しっかりシャンプー液を洗い流し(指の間も注意する)、よく乾かす。
※ドライワイプ:被毛に付着した環境抗原(花粉など)が皮膚に到達する前に除去するため、散歩後に被毛を乾拭きする。
※拭き掃除後の掃除機
※カーペットなどの排除
※ステロイド剤の投与
といったものがあるが、「いかにしてステロイドに頼らないか」が鍵である。
●ステロイド剤は多くのケースで効果的であり、その上安価であるため非常に実用的な薬である。その反面、肝障害、易感染性(病気にかかりやすくなる)、多食多飲といった副作用がある。そのため、Pfizer社のDr.Sousaは年間投与量の上限を「体重×30mg」と提唱している。
●ステロイド剤に頼らないためにはアレルギーの原因を知ることが大切である。アレルゲン(アレルギーの原因)は血液中の抗体(IgE)を調べることでを知ることができる。当病院では、採取した血液をアメリカに送り、92項目調べてもらう。約1週間~10日で結果が分かる。
●アレルギーの原因が分かったら、まずはフードの選択である。ここで知っておきたいのは、フードを変えてもその効果はすぐには出ないことも多く、フード変更から2~3ヶ月は様子を見る必要がある。上記の以外の治療法として、雑草に反応する場合には茂みを避け道路の上を散歩させる、コットンにアレルギー反応を示す場合には合成繊維を使用したタオルを使うなど、臨機応変に対処する必要がある。
※上記のように、猫においては食物アレルギーの症状として嘔吐・下痢といった消化器症状が表れることも多く、その場合には、消化器症状はフード変更から2~3日以内に改善が見られることが多い。
●アレルギーは環境抗原と食物抗原両方に反応している場合が多く、この検査会社によると、環境抗原ではハウスダスト、食物抗原では米、鶏肉、羊肉などが多い。
●それからもう一つ大切なことは、ノミのコントロールである。犬、猫ともにノミアレルギーは多い。ノミが1匹いるだけで掻痒感(痒み)を広範囲にもたらす。特に、腰背部、頸部に皮膚炎や脱毛がみられる。
※病院以外でもノミ予防薬は売られているが、病院で処方するものとは成分が異なり、効き目が弱い。ノミ取り首輪やノミ取りシャンプーなどは効果が弱いばかりか、皮膚炎の原因になることもある。ノミ予防薬は病院で処方してもらい、確実に予防しておきたい。
文責: 獣医師 棚多 瞳