飼い犬や猫がいきなり痙攣を起こしたら、たいていの人は大慌てで来院する。しかしこの痙攣、犬ではめずらしい事ではない。今回は癲癇(てんかん)についての話。
●癲癇とは何?
癲癇とは「痙攣や脱力などの発作を繰り返すこと」(1回のみの発作は癲癇には含まれない)をいう。この癲癇、人では全国で約100万人(0.5~1%)が罹患しているとされ、珍しい病気ではない。動物においては、猫では稀だが、犬では全体の2~3%が罹患しており、決して他人事ではない。ほとんどの犬が1~5歳で初めて発作が起こる。遺伝性が疑われる犬種には、ビーグル、ダックス、ラブラドール・レトリバー、ゴールデン・レトリバーなどがある。
●どのようにして癲癇が起こるのか?
大脳の神経細胞が無秩序に興奮することにより生じる。この興奮が生じる部位により症状は様々となる。
●どのような症状を引き起こすのか?
*強直性痙攣(筋肉が同時に収縮する)
*間代性痙攣(拮抗する筋肉が交互に収縮する)
*意識障害
*流涎(唾液の分泌)
*失禁、脱糞
*呼吸不全
*ランニング行動
*咀嚼(噛む)、舐める
*部分的な筋収縮、非対称的な動き・感覚
*嘔吐、腹痛
*奇妙な行動(異常な興奮や恐れ)
といったものまで様々である。
●人では発作前にめまい・ちくちくする痛み(打診痛)・不安といった前兆の見られることが多いとされる。犬でもそのような前兆はあるのか?
多くの飼い主が「発作の直前に異常な行動をとる」と言う。例えば、隠れる、飼い主を探す、興奮する、吐く、隅に行きたがる、飼い主から離れたがらずやたら寄り添う、などといった行動をとる。また、発作前数時間~数日にかけて不安そう、吠えるといった行動をとるものもある。
また、発作後は嗜眠、隠れる、興奮といった行動異常が数分~数時間(時には数日間)続く。
●原因は何なのか?
症候性(二次性)癲癇と特発性(真性)癲癇がある。
※症候性(二次性)癲癇
・変性
・先天性:水頭症(チワワ、ポメラニアン、ヨークシャ、トイ・プードル、 パグ、ペキニーズ、マルチーズなど)
・代謝性:低・高血糖、肝疾患、腎疾患、電解質異常
・腫瘍:原発性および転移性
・炎症:ウイルス、真菌、細菌、リケッチアなど
・外傷
・中毒:ナメクジ殺し、有機リン系の殺虫剤など
・血管性:脳内出血、脳梗塞
※特発性(真性)癲癇
上記の原因に当てはまらず、原因不明の癲癇のこと。犬の癲癇では最も多く見られる。真性癲癇は脳波検査で異常脳波(癲癇脳波)を検出することがあるが、CTやMRI検査、病理組織検査では異常を認めない。
●治療はどのような内容か?
症候性(二次性)癲癇の場合は原疾患の治療を行う。一方、特発性(真性)癲癇では抗痙攣剤を投与する。抗痙攣剤を以下に示す。
・フェノバルビタール:60~80%の犬に効果を示す。肝臓で代謝されるため、肝臓に障害を与えることがある。血中濃度が安定するまでに10日間を要するため、投与開始後10日後に血中濃度を測定する。投与を急にやめると癲癇を誘発することがあるため、投与は確実に行う。
・臭化カリウム:単独で使用する場合とフェノバルビタールのみではコントロール困難な症例に対して追加使用(併用)する場合がある。フェノバルビタール単独では効果の薄い難治性のケースでも、臭化カリウムの追加投与により約70%に改善がみられる。臭化カリウムは肝臓で代謝されず腎臓から排泄されるため、腎不全の症例は注意が必要である。その排泄が塩素イオンの摂取に影響されるため、フードの変更には注意を要する。人では睡眠不足、精神的ストレス、特定の音や光などが癲癇誘発因子として挙げられている。 動物でもエンジン音、花火などの音、ストレスにより癲癇を誘発することがある。あまり怒らなくなったことで癲癇の回数が減ったという話も聞く。また、文献によると発情期に癲癇が起こりやすいとの報告もある。愛犬には、なるべくストレスの無い平穏な生活を送らせたい。
●家で発作が起こった時はどうすればいいのか?
発作が起こると、誰もが焦ってしまうが、頭や目をぶつけてしまう、狭い隙間に頭を突っ込む、唾液などを誤嚥する、といった行動を予防するため抱っこする。発作は通常1~3分で終わるが、重積といって20~30分発作が持続する場合がある。短時間の癲癇では、痙攣が原因で死にいたることは少ないのだが、この重積の場合は痙攣が原因で高体温、脳壊死が生じ、死に至ることがあるため、緊急疾患である。痙攣が止まらない場合は病院へ直行する。
また、全身性痙攣発作の場合は分かりやすいのだが、来院時に発作時の状況を説明することが困難な例も多数ある。そういった場合、発作時の映像があると診断に大変役立つ。
●長生きできるのか?
犬では特発性癲癇が最も多いが、癲癇だから寿命が短いということは無い。むしろ頻繁に病院に来ることで、他の病気が早期発見され、長生きできるケースもめずらしくない。適切な投薬で癲癇をコントロールしよう。
※人では加齢に伴い、脳血管障害による痙攣が増加する。以前は犬では脳血管障害は少ないとされていたが、最近では犬でも脳血管障害が起こっている、という考えに変わっている。ただし、人とは異なり、数日~数週間で改善が見られることも少なくない。
文責:獣医師 棚多 瞳