<今日のワンコ>
6歳9カ月齢のM.ダックス、避妊済雌、地鶏のモモの先(正確には食する時に人が持つ処で、解剖学的には中足骨=足の甲の骨)を与えた。その直後より、頻繁の吐気を催し、白い泡を吐きだして、苦悶状態である、との事で「夜間救急」に来院。胸部レントゲン撮影で心基部と噴門の中間に異常陰影を確認し、全身麻酔下で太目のチューブを食道内に挿入することで異物を胃内に送り込み、処置を終了した。
<食道疾患>
①アカラシア:上部食道括約筋の弛緩機能障害。抑制性の神経が介在する。
②食道炎:食道粘膜、時に粘膜筋板まで広がる急性または慢性の炎症。腐食剤による化学的傷害、胃食道逆流、異物が原因となる。
③食道内異物:犬で一般的だが猫では稀。物理的な通過障害を引き起こし、異物周囲の筋肉の痙攣と組織の浮腫が異物の移動をより困難とする。
④食道狭窄:重度の食道炎に続発する食道管腔周縁の狭窄。食道炎から管腔の狭窄が起こるまでの期間は約1~3週間。
⑤食道拡張症:び漫性の食道の拡張と無蠕動。先天性または特発性、もしくは損傷によって引き起こされる。アイリッシュセッター、グレートデン、ジャーマンシェパード、ラブラドールレトリバー、チャイニーズシャーペイ、ニューファンドランド、Mシュナウザー、フォックステリア、シャム猫に家族性の素因の報告がある。求心性の迷走神経支配の異常が関与することが示唆されており、重症筋無力症は二次的な食道拡張症の原因の25%を占める。
⑥血管輪異常(右大動脈弓遺残):先天性の胸腔内食道を取り囲む大動脈の奇形。ジャーマンシェパード、アイリッシュセッターには家族性の素因がある。
⑦食道憩室:憩室とは食道壁の小さな嚢で、圧出性と牽引性に分類される。圧出性は閉塞などの管腔内圧の増加によるもので、牽引性は食道周囲炎による線維性の癒着や収縮が原因となる。
⑧食道新生物:食道の腫瘍は稀で、犬猫のすべての悪性腫瘍の0.5%以下である。犬ではSpiracerca lupi 感染による肉芽腫の悪性転換によって発生する線維肉腫、骨肉腫が最も一般的。猫では扁平上皮癌が最も一般的である。
⑨食道の運動低下(無蠕動):食道拡張症を引き起こす求心性の迷走神経支配の異常や、自律神経失調症、その他、異物、狭窄、血管輪異常、食道炎は、食道の運動低下の原因となる。
⑩食道瘻管:食道と多くは呼吸器官(肺、気管、気管支)との異常な通路。後天性の瘻管は特に骨などの食道内異物と関連している。
⑪食道裂孔ヘルニア:(1)滑脱裂孔ヘルニアは食道裂孔からの食道と胃の頭側への変位。(2)食道周囲裂孔ヘルニアは、食道裂孔付近の傷から胃の一部が頭側へ変位すること。多くは先天性で進行性である。チャイニーズシャーペイは発生率が高い。
⑫その他:食道穿孔、食道周囲の障害、胃腸重積症。
<食道内異物>
A.どんな異物が多い?:骨、魚釣り針、(縫い)針、木切れ、おもちゃ、トウモロコシの芯などの野菜、牛・馬の蹄などのガム類・・・など。
B.症状:突出(嘔吐は胃の内容物を吐き出すことだが、突出は食道内のものを口から出すこと)、嚥下困難、嚥下痛、吐くような仕草、過度の流涎、元気消失、誤嚥性肺炎になれば発熱や発咳。
C.診断:禀告より明らかな場合が多い。胸部レントゲン撮影を行い確認するが、不明確な場合にはバリウム造影を実施して確定する。
D.処置:消化吸収されない異物に関しては内視鏡で摘出する。消化吸収されるものに関しては内視鏡で摘出するか、太目で柔らかいチューブを食道内に挿入して胃内へ送り込む。処置後は食道粘膜の剥離や裂傷、穿孔など損傷がないかどうか、内視鏡で確認することが望ましい。胃内へ送り込んだ症例については処置後にもレントゲン撮影を行い、異物が胃内に存在することを確認する。