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9月30日(木)の「ペット・ラジオ診察室」は「犬・猫の嘔吐の診断」についてでした。

嘔吐は、単純な胃腸炎から尿毒症、膵炎、肝疾患、脳疾患などさまざまな疾患でみられる。

動物に痛みなどの過度な負担を掛けない、費用も最低限で短時間で終える検査がベストである

●以下、「嘔吐」で当院を受診する動物の「診断マニュアル」について記す。

1)入念な禀告聴取:異物の摂取や拾い食い等はなかったか。食餌の内容を最近変えていないか。シャンプーやホテル、旅行などストレスの掛かるようなことはなかったか。特に異物に関しては禀告だけで診断可能である。仮に、異物の摂取が飼い主の目の前であり、摂取後短時間であれば速やかに催吐処置内視鏡での摘出を検討する

2)丹念で慎重な腹部触診:余程胃が膨満していない限り、胃を触知することは不可能である。しかし、十二指腸の一部と空・回腸、盲腸と大腸(結腸と直腸の一部)は大型犬や肥満の犬・猫を除いて触診できる。消化管の緊張性や疼痛・腔内のガス貯留、消化管壁の肥厚度合いなどをチェックする。腸閉塞腸重積胃捻転は触診のみで容易に診断可能な症例も少なくない

3)染色の糞便検査:実際の臨床では、嘔吐や下痢を呈して来院する犬・猫の6~7割は消化管内の悪玉菌の増加による。悪玉菌の代表格は顕微鏡で直接観察されるカンピロバクターと染色して観察できるウエルチ菌(クロストリジウム)である。その他、糞便にリンパ球や好酸球が異常に増加する炎症性腸炎も仮診断できる。糞便中の細菌バランスの崩壊未消化物の有無などの観察も重要である。さらに、犬・猫では回虫や鞭虫、鉤虫、条虫(マンソン裂頭条虫)の消化管内寄生虫の虫卵も見逃してはならない

4)血液検査:糞便検査で異常が見つからない場合や、見つかった場合でも症状が激しい時(頻回の嘔吐)や高齢動物あるいはその他の持病がある症例では血液検査を実施する。
白血球数-パルボウイルス感染症では減少。
腎機能検査(尿素窒素=BUN、クレアチニン)-尿毒症、腎不全。
膵外分泌機能検査(アミラーゼ、総胆汁酸)-膵炎。
肝機能検査(ALT、ALP、総ビリルビン)-肝不全。
電解質(Na、K)-アジソン病(副腎皮質機能低下症)。
アンモニア/胆汁酸-門脈シャント。
カルシウム-上皮小体機能亢進症
以上の検査を実施すれば、生命にかかわる状態か否かを判断できる。

5)超音波検査:次に肝臓(腫瘍、小肝症など)や胆嚢(胆泥症、胆石など)、さらには胃腸を圧迫するような腫瘍などの病変が存在しないか調べる。

6)レントゲン撮影:胃の触診は困難であること、超音波検査でも胃内の状況を把握することは容易ではない。そこで腹部の異常を広汎に把握できる検査がレントゲン撮影である。レントゲン撮影では胃内異物、腸内異物、腸閉塞、腸重積、腫瘍(胃・腸管圧迫)、横隔膜ヘルニアなどを確認することが可能である

7)バリウムによる消化管造影検査:上記の6まで実施すればおおよその異常を発見できるが、それでも嘔吐の原因が判断できない場合にはバリウム造影を実施する。バリウム造影では胃・腸のレントゲンに写らない異物や通過障害の有無運動性の異常を知ることが可能である

8)内視鏡:上記の7まで検査して異常を特定できなければ内視鏡検査を実施する。通常は胃酸分泌抑制剤や消火剤・制吐剤の投与、輸液、絶食、流動食などの対症療法で経過観察して、状況が好転しなければ全身麻酔下で行う

まとめると、禀告の聴取→腹部触診→糞便検査→血液検査まで実施すれば、多くの症例で診断がつく。それでも診断できない場合には超音波検査→レントゲン撮影→バリウム造影→内視鏡検査を行う。当然ながら、動物や飼い主の負担が少なくて済むよう、順を追って診断を進めることが肝要である

以下に嘔吐の原因等について文献(Textbook of Internal Medicine, Sixth Edition, P133、図はp132のFig.38-1、p135のFig.38-2、p136のFig.
38-3)を翻訳して示した

Box38-1 一般的な嘔吐の原因

代謝/内分泌異常尿毒症
・副腎皮質機能低下症
・糖尿病
・甲状腺機能亢進症
・肝臓疾患
・内毒素血症/敗血症
・肝性脳症
・電解質異常
・酸塩基異常

中毒物質
・鉛
・エチレングリコール
・亜鉛
・ストリキニーネ

薬物強心配糖体
・エリスロマイシン
・化学療法薬
・アポモルヒネ
・キシラジン
・ペニシラミン
・テトラサイクリン
・NSAIDs

腹部の異常膵炎
・腹膜炎
・腫瘍
・肝胆道疾患

食餌の原因
無分別な行動
不耐性

胃の異常胃炎
・ヘリコバクター感染症
・寄生虫
・潰瘍
・腫瘍
・異物
・拡張‐捻転
・裂孔ヘルニア
・閉塞
・運動障害

小腸の異常炎症性腸疾患(IBD)
・腫瘍
・異物
・腸重積
・寄生虫
・パルボウイルス
・細菌の異常増殖

大腸の異常
・大腸炎
・便秘
・寄生虫

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