今回は「皮膚の腫瘍」について述べる。
●皮膚の腫瘍は犬では最も多く認められ、全体の1/3を占める。また、猫でも造血系腫瘍に次いで2番目に多く認められ、全体の1/4を占める。皮膚の腫瘍は飼い主さんの心がけ次第で早期発見することができる。日頃のちょっとした心がけで予後が変わるといっても過言ではない。
●犬の皮膚の腫瘍トップ10
1.肥満細胞腫 18.8%
2.肛門周囲腺腫/腺癌 10.1%
3.脂肪腫 7.1%
3.脂腺の過形成/腺腫 7.1%
5.組織球腫 6.7%
6.扁平上皮癌 6.2%
6.黒色腫 6.2%
8.線維肉腫
9.基底細胞腫
10.血管周囲細胞腫
・肥満細胞腫:グレードにより悪性度は異なるが、基本的には早期発見および外科的切除が重要となる。
・肛門周囲腺腫:肛門周囲腺から発生する良性の腫瘍で、肛門周囲腺とは肛門周囲の皮膚にある脂腺が変化したもので、猫にはない。肛門周囲の他、尾の3分の1、腰仙部、包皮にも存在する。肛門周囲腺はアンドロジェン依存性に発達するため、肛門周囲腺腫は去勢していない雄犬に多い。皮膚腫瘍全体に対する腺癌の占める割合は0.25~2.6%と少ない。
・脂腺の過形成/腺腫:高齢の犬でよく認められ、固く、盛り上がり、カリフラワー状になることが多い。直径は数mm~数cmである。
●猫の皮膚の腫瘍トップ5
1.基底細胞腫 19.7%
2.肥満細胞腫 17.4%
2.線維肉腫 17.4%
4.扁平上皮癌 11.4%
5.脂腺の過形成/腺腫 3.1%
・基底細胞腫:猫(高齢)でよく認められる。この腫瘍は表皮、脂腺、汗腺の基底細胞からなるもので、通常良性の経過をたどる。
・肥満細胞腫:良性の経過をたどることも多い。
・線維肉腫:皮膚や皮下の線維芽細胞から生じる悪性腫瘍。広範な外科的切除が望まれる。
・扁平上皮癌:カリフラワー状の増殖性病変を伴うものと、潰瘍性病変を伴うものがある。毛が薄く、色素のない、日光障害を受けた皮膚に発生しやすい。
●犬では皮膚や皮下の腫瘍の70~80%は良性であるのに対し、猫では50~65%が悪性である。
●腫瘍はそれぞれ異なる「顔」を持ち、腫瘤(しこり)があり、徐々に大きくなっていくものばかりとは限らない。
例えば、組織球腫は犬では5番目に多く(特に4歳以下の若い個体に多い)、固く境界明瞭で隆起した腫瘤が急速に成長するが、そのほとんどが3ヶ月以内に自然と退行する。
また、肛門周囲腺腫や扁平上皮癌では、潰瘍を伴い、一見皮膚病のように見えることもある。
●悪性腫瘍にはどのような特徴があるのか?
①急速に成長する
②固着している
③深部組織へ侵入している
④潰瘍ができている
⑤境界不明瞭
といった特徴を持つことが多い。
●診断方法は?
確定診断や予後を推測するには組織学的検査が必要となるが、仮診断には容易に実施でき安価かつ迅速に診断を行うことのできる細胞診を行うことが多い。皮膚の腫瘍は早期発見しやすく、早期に診断し早期に治療を行うことが大切である。そのためには細胞診は非常に有用な方法である。
●その他気をつけることは?
腫瘍の発生した部位によってはより早めの治療が望まれる。具体的には、眼瞼や肛門周囲の腫瘍である。眼瞼では腫瘍が大きくなりすぎると腫瘍切除後、アイラインが崩れてしまう。また、肛門周囲は腫瘍が大きくなると排便困難となるのに加え、大きくなった腫瘍を摘出する場合には周囲の筋肉を損傷する恐れがある。これらのケースでは、例え良性であってもある一定以上大きくなったものでは早めの切除が望まれる。
文責:棚多 瞳