今回は「ヒゼンダニまたはセンコウヒゼンダニ」というダニが引き起こす「疥癬」について述べる。
①ヒゼンダニまたはセンコウヒゼンダニはどのようなダニなのか?
●ヒゼンダニは古くから世界中に分布し、人畜に寄生して「疥癬」あるいは「皮癬」とよばれる皮膚病を引き起こす。
●人畜に寄生するヒゼンダニは宿主に対する嗜好性・選択性に差があり、宿主別にヒトヒゼンダニ、イヌヒゼンダニ、ウマヒゼンダニ、ブタヒゼンダニといった変種名が用いられる傾向がある。
●猫では別種のネコショウセンコウヒゼンダニの寄生がある。
●ヒゼンダニの体長は雄が約0.3mm、雌が約0.4mmであり、ネコショウセンコウヒゼンダニは雄が0.12~0.15mm、雌が0.24~0.30mmである。その為、これらは肉眼での観察はできない。
●ヒゼンダニの雌ダニは受精後、1日あたり2~3mmという速度で宿主の皮内・角質層にトンネル(疥癬トンネルと言われる)を掘り、この中に1日あたり2~3個、総計35~50個に達する虫卵を産む。雌ダニは産卵を終了すれば死亡する。ダニの寿命は約1ヶ月である。
●産み落とされた虫卵は数日で孵化し、体表へ出る。幼ダニは別の場所に浅いトンネルを掘り、成ダニになると浅い皮内で交尾する。成熟・産卵までには2~3週間を要する。
②どのような症状が見られるのか?
●イヌにヒゼンダニが寄生した場合は、好斑性発疹、丘疹、水疱、膿疱、脱毛、皮膚肥厚などが見られ、皮膚のあまり厚くない部分または体毛の薄い部分(膝、肘、耳介の縁、腹部腹側、胸部腹側)に好発する。季節性がなく、強い痒みを伴うのが特徴であるが、頻繁で丹念にシャンプーを行っている場合等では、強い痒みは認められるものの病変がほとんど認められないこともある。
●猫にネコショウセンコウヒゼンダニが寄生した場合は、脱毛、紅斑、鱗屑化(皮膚表面の角質細胞がはがれ落ちるもの)および肥厚した痂皮(かさぶた)が特徴で、初期は顔面と耳介に病変が現れることが多い。
●イヌヒゼンダニ、ネコショウセンコウヒゼンダニはともに、ヒトにも感染することがあるが、その場合、痒み、丘疹、発疹が主に腕、胸、腹に出現する。感染動物の治療を行えば通常一過性である。
③どのように感染するのか?
●ヒゼンダニは体表に出たり、表皮の比較的浅い部分に付着している時期があるため、接触感染が多い。しかし一方で、宿主から離れても10日生きられるというデータもあり、間接的に感染することもある。
●イヌヒゼンダニは人(まれに猫)、ネコショウセンコウヒゼンダニは犬、人、兎に一時的に寄生する。
④診断方法は?
●確定診断は、患部の皮膚や痂皮を掻爬(組織をかきとること)し、顕微鏡にてダニを検出することで行う。
●ただし、必ずしもダニを検出できるわけではない。特にネコショウセンコウヒゼンダニはイヌヒゼンダニよりも検出率が低く、僅か20%とも言われている。
●その為、疥癬が疑わしい場合は治療を行い、それに反応するか否かによって診断することもある(診断的治療)。ちなみに、疥癬に類似した症状を示すものには、食物アレルギー、アトピー、マラセチア性(脂漏性)皮膚炎、ノミアレルギー、膿皮症、毛包虫症、膿痂疹などがある。
●疥癬の感染犬で耳介を擦るとその75~90%で同側の後肢が動く現象が見られる。
●血清ヒゼンダニ抗体をELISAにて検査する方法が研究されているが、現在、利用可能な血清学的検査はない。
⑤治療方法は?
●イベルメクチンなどの薬剤の投与。イベルメクチンによる治療は高い効果が得られ、皮下注射あるいは経口投与を1~2週間おきに行う。
●従来は、殺虫を目的に硫黄剤、低毒性有機鱗剤などが用いられていた。
●アミトラズ(有機リン系農薬)を希釈して全身薬浴を行う(顔や耳も含め全身)。
●環境の浄化
●抗脂漏治療(他の治療の補助であり、改善スピードを早める)
●抗生物質(二次的膿皮症の為)
●抗ヒスタミン剤
※同居の動物に対しても、その全てに同時治療を行う。
※コリー、オーストラリアン・シェパード、シェルティーなどのコリー系犬種では遺伝子変異が認められるリスクが高く、その個体ではイベルメクチン投与により重篤な中枢神経抑制を惹起する。現在、血液により遺伝子変異の有無を調べることができる。
適切な治療を行えば約1ヶ月程度で改善する場合がほとんどである。
文責:棚多 瞳