人の膣炎は珍しくない病気とされるが、犬や猫ではどうだあろうか? 犬でもよく遭遇する疾患であるが、猫では少ない。
●どのような症状が見られるか?
膣炎は飼い主さんが症状に気づいて来院されるケースが多く、そのほとんどが陰部からの排泄物を主訴とする。陰部からの排泄物は排尿後に認められることが多い。排泄物は粘液性または化膿性である。
その他、陰部を異常に舐める、発情期ではないにも関わらず雄が近寄ってくる、失禁といった症状が認められることがある。
●原因は何なのか?
①膣や膣前庭の異物、腫瘍、解剖学的異常
②細菌感染、ウイルス感染(ヘルペスウイルス)
③生殖管の未成熟
④アンドロゲン性ホルモン刺激
⑤尿による刺激(膣の異常による尿の膣内貯留に起因)
※膣炎を引き起こす解剖学的異常
外陰部の反転・陰核腫大・半陰陽(先天的に性器の形が雌雄いずれとも判別しがたい個体のことで、雄のペニスのような形である)・膣狭窄・膣中隔・膣弁遺残・膣閉鎖・膣の腫瘍などが挙げられる。
※膣の腫瘍
犬において、膣や外陰部の腫瘍は腫瘍全体の2.5~3%を占め、その7~8割(8~9割とする報告も有り)は良性腫瘍である。良性の腫瘍では平滑筋腫が最も多く、良性の腫瘍は切除する際、同時に避妊手術を行うことで腫瘍の発生率や再発率を下げることができる。
●治療はどのように行うのか?
膣洗浄や抗生剤の投与を行う。ただし、1才以下の思春期前の犬で認められる膣炎はその90%が成長とともに自然と治るため、通常治療の必要はない。※幼犬の膣炎や膣前庭炎は初回発情とともに自然消失(治癒)する。性ホルモンの関与が考えられる。
●避妊は予防になるのか?
膣炎は避妊した雌でも未避妊の雌でも罹患する可能性があり、避妊手術は膣炎の予防にはならない。また、膣炎はいずれの年齢、犬種、発情サイクルでも生じる。
文責:棚多 瞳