今回は「腫瘍随伴症候群」について述べた。犬や猫も高齢化が進み、腫瘍ができる犬や猫は多い。犬や猫は腫瘍ができるとどのような症状が見られるのだろうか?
●腫瘍ができると腫瘍そのものによる影響だけでなく、腫瘍で産生・放出されるホルモン、成長因子、サイトカインなどの生物学的活性物質により、腫瘍から離れた部位の構造や機能を変えることで様々な症状を引き起こす。それを腫瘍随伴症候群と言い、時には腫瘍そのものよりも死亡率や生活の質に大きく影響を与えることがある。
主な腫瘍随伴症候群を以下に述べる。
●貧血
貧血が認められる動物ほど生活の質が低下し、治療に対する反応が悪く、生存期間が短い傾向がある。症状として舌や粘膜の蒼白が認められる。
貧血を生じる原因としては、
①慢性疾患により、鉄貯蔵や代謝の異常、赤血球の寿命減少、骨髄の反応低下を生じることによる。
②免疫介在性(自分の赤血球に対する抗体を作り、赤血球が壊される)
③慢性出血
④血管内にフィブリン線維があることで微小血管内で赤血球が破壊される。
などが考えられている。
●血小板減少症
血小板消費の増加、免疫介在性血小板破壊などの原因により生じる。重症例では、点状や斑状出血が認められる。血小板の減少は腫瘍動物では非常によく認められ、特に腹腔内腫瘍の場合には大量出血を引き起こしやすいため、より安静にしておく必要がある。
●高カルシウム血症
症状としては犬では食欲不振、多飲多尿、嘔吐、猫では多飲多尿や嘔吐は犬よりも少なく、食欲不振を多く認める。
高カルシウム血症は様々な腫瘍で生じる。もちろん上皮小体の腫瘍でも高カルシウム血症となるが、その他の腫瘍で高カルシウム血症を引き起こしやすい腫瘍は、犬ではリンパ腫、肛門嚢腺癌、猫ではリンパ腫、扁平上皮癌である。
※高カルシウム血症は抗利尿ホルモンを抑制する効果があり、多尿となる。
※持続的な高カルシウム血症は尿細管への障害を引き起こす。
●低血糖
その原因ははっきりとは分かっていないが、インスリン産生増加、インスリン類似物質の増加、大きな腫瘍でグルコースが利用されている、などが考えられている。
膵臓のインスリン産生腫瘍(インスリノーマ)以外の腫瘍でも生じる。具体的には、肝細胞癌、平滑筋腫、平滑筋肉腫、血管肉腫、多発性骨髄腫、腎臓の腺癌、肝癌などがある。
●神経障害
行動の変化、運動機能不全、発作などの症状が見られる。
小脳変性、視神経炎、進行性多病巣性白質脳症、壊死性脊髄障害、末梢神経障害などを生じる。
グルココルチコイドなどの治療が必要となることがある。
●肥大性骨症
骨膜の骨化過剰が特徴的で、末端の骨でよく認められる。猫ではめずらしい。
肺腫瘍(原発、転移ともに)、食道腫瘍、膀胱の横紋筋肉腫、腎芽腫、肝臓癌など、色々な悪性腫瘍で認められる。
●脱毛
かゆみは認められない。猫では膵臓癌、胆嚢癌、犬では精巣腫瘍で認められる。
●腎障害
腫瘍関連性免疫複合体が沈着することで、蛋白漏出性腎症を引き起こす。また、高カルシウム血症によっても腎障害を生じる。
●重症筋無力症
運動不耐性、嚥下困難、巨大食道症、誤嚥性肺炎などを生じる。
胸腺腫でよく認めるが、骨肉腫、胆管癌などでも起こりうる。
●癌性悪液質
適切な栄養を取り入れているにも関わらず、筋肉や脂肪が落ちていくことを言う。これには、癌に関連する代謝性変化(蛋白異化亢進、乳酸増加、インスリン増加など)が関わっており、この代謝性変化は体重減少が始まるずっと以前から始まっている。
具体的な症状は、初期では食欲があるにも関わらず体重が減る。その後、徐々に食欲不振、活動量の低下、悪心、嘔吐などの症状が見られるようになる。
体重の減少が認められるもとほど生存期間が短い傾向がある。
癌性悪液質に対する治療は、
①十分なカロリー補給(kcal)
家庭で簡単に計算する方法は、(30×体重kg)+70である。
②食欲を高める
食事を温める、薬剤の投与など
③オメガ3脂肪酸を与える
腫瘍の成長を抑制し、腫瘍動物に有益だと考えられている。
④食事の頻回投与
●発熱
感染や薬の副作用でも生じるが、それらが無くとも様々な腫瘍で認められる。人ではNSAID(インドメタシン、ナプロキセン)が使用される。
文責:棚多 瞳