股関節脱臼は股関節異形成の先天的な異常や変形性股関節症などの後天的な要因が素地にあって起こる場合と、交通事故などの外的要因が加わって起こる場合がある。今回は股関節脱臼症例で、特に猫・小型犬~中型犬に対する非観血的股関節脱臼整復法と大腿骨骨頭切除術について述べる。
<はじめに>
●股関節形成不全を伴う犬は(多くは大型犬)、些細な外傷に続発して脱臼を起こす危険性がある。
●交通事故などの外傷では骨盤骨折などその他の箇所の骨折が見られる。
●頭背側脱臼が一般的であり、後腹側脱臼は少ない。
●外傷性股関節脱臼は、小動物における全ての脱臼の90%を占める。
●頭背側脱臼の症例では、大腿骨頭は寛骨臼背側縁を越えて背側へ移動する。
・大腿骨頭靭帯と関節包はともに断裂している。
・靭帯付着を伴う剥離骨折が起こる場合がある。
・殿筋群の収縮によって大腿骨近位の頭背側方向への変位が悪化する。
●腹側脱臼を伴う症例では、寛骨臼横靭帯は断裂している。
<診断>
●触診でもある程度推測可能だが、レントゲン撮影で確定診断する。
<治療>
●非観血的整復法と観血的整復法がある。
●非観血的整復法には外固定(Ehmer包帯法)適応の条件は・・・・・
・損傷の持続時間が48時間以内である。
・股関節の構造が正常である。
・整復後、関節を大きく動かすことによって寛骨臼から軟部組織を関節外へ出し、関節を安定化させる。
・通常は5日間寛骨臼内に大腿骨骨頭が保持されていれば成功。その後は犬なりのリハビリで大丈夫。
・当院での本法による治癒率はおよそ3分の2である。
●観血的整復は非観血的方法で安定性が得られないか、失敗した場合に行う。
・関節外法には議論の余地がある。
・関節内法にはトグルピンを使用したピン固定、筋膜ループ法、仙結節靭帯転移術がある。
・三点骨盤骨切術は、関節の変性を伴わない若齢犬における軽度の形成不全に対して適応される。
●猫や小型犬~中型犬の場合(15kgまでの体重)で、非観血的整復が不可能であった場合には、大腿骨骨頭切除を実施することで1~2ヶ月も経てば正常犬と変わらない運動や生活が可能である。
・本法の最も大きなメリット(利点)はコストの面と確実性にある。
・大腿骨骨頭切除を実施する意義は、脱臼した大腿骨骨頭と骨盤骨との摩擦による痛みを除去することにある。
・術式は周囲の組織、特に臀筋群(中・深臀筋)の損傷を最小限にするアプローチ法を選択する。術後の臀筋委縮に因る大腿骨の背側転位が著しくなり、少なからず歩様に影響を及ぼす。
・関節が正常(先天的あるいは後天的な股関節の異常を認めない症例)で、かつ受傷後48時間以内であれば非観血的整復を試みる。
・関節軟骨の変性が存在する場合には、股関節の整復を実施するのではなく、大腿骨骨頭切除術または股関節全置換術が適応される。
・非観血的整復が困難か、あるいは失敗した場合には骨頭切除術を選択する。非観血的整復が成功した場合でも、その後に動物が暴れること等により、しばしば再脱臼(報告では約50%)が起こる。
り、しばしば再脱臼が起こる。
・様々な術式が考案・提唱されているが、本法の「大腿骨骨頭切除術」は体重が15kg以下、特にトイ犬種では術後に臨床上あるいは動物の生活上、大きな問題は見られない。これは人の場合(人工股関節全置換)と大きく異なることであり、犬・猫の後肢1肢への負荷が体重全体の15%程度だからである(前肢2肢に70%が、後肢2肢に30%の体重が負荷される)。
・数か月で切除された周囲には線維組織が取り巻き「偽関節」が形成される。
・両側の骨頭を切除した症例でも同様である。
・術後のケアとリハビリが重要である。
・術後4~5日は包帯で固定し、ケージレストさせる。これは主に術後出血を考慮したものである。その後5日間は犬なりに運動させ、それからは用手で屈伸運動をさせるなどしてリハビリを行う。場合によっては鎮痛剤を使用して委縮した筋肉をストレッチさせたり、運動負荷を加える。
○この方法はゴールデンなどの大型犬でも応用できるが、体重が重い分、歩様の不安定さは否めない。しかし、跳び回ることも可能であり、通常の運動では痛みを感じないようである。
○本法は、小型犬に多いレッグ・ペルテス病の殆どの症例に適応・応用されている。