●定義:神経筋接合部におけるアセチルコリン受容体の減数に起因して骨格筋の筋力低下を認める。
●原因:先天性と後天性に分けられる。
<先天性>
・骨格筋の後シナプス膜状のアセチルコリン受容体の先天的な欠損に因る。
・3~8週齢で症状が明らかとなる。
・ジャックラッセルテリア、スムース・フォックス・テリアでは常染色体劣性遺伝である。
<後天性>
・免疫介在性疾患の範疇に入る。
・神経筋接合部のアセチルコリン受容体に対して抗体が結合し、後シナプス膜の感受性を低下させる。
・すべての犬種で発生する。
・猫での発生はまれであるが、猫の胸腺腫では一般的に本症が認められる。
・二峰性の発症年齢分布(若年齢2~3歳と老年齢9~10歳)を認める。
・他の免疫介在性疾患を併発しやすい。
・さまざまな腫瘍の腫瘍随伴性疾患として発症することもある。
●症状
・全身型:四肢の筋虚弱(運動で悪化し、休息により回復)。
・局所型:四肢の筋虚弱を伴わず、咽頭、喉頭、顔面筋の虚弱。
・劇症型:重度の四肢の筋虚弱が急激に発症し起立不能、頭を持ち上げることさえも困難な場合もある。
・巨大食道症を併発しやすい為(成犬発症型巨大食道症の25~40%が重症筋無力症)、吸入性肺炎(誤嚥性肺炎)を発症しやすい。
●診断
・アセチルコリン受容体に対する血中抗体価測定を:90%の症例で陽性(全身型の症例では98%が陽性)である。
・テンシロンテスト:超短時間作用型抗コリンエステラーゼを投与する。アセチルコリンの酵素性加水分解を阻害し、アセチルコリンの有効濃度やシナプス間隙での作用時間を増し、アセチルコリンとアセチルコリン受容体の相互作用を最大にする。投与後30~60秒以内で回復し、その後5分間持続する。局所型では判断できないこともある。また、劇症型ではアセチルコリン受容体が抗体によって著しく破損されている為、50%は反応しない。回復がみられない場合でも除外診断にはならない。
・筋電図:反復神経刺激に対して筋肉の衰弱性活動電位を認める。巨大食道症を伴う場合には吸入性肺炎の危険性がある為、麻酔はできるだけ避ける。
●治療
・抗コリンエステラーゼ薬。
・臭化ピリドスチグミン:流涎、嘔吐、下痢、筋肉の痙攣などの副作用に注意。
・吸引性肺炎の治療:抗生剤の投与、噴霧療法。予防法は、食事は立位で行ない、食事後10~15分間は立位に保つ。
・免疫抑制(後天性の場合)の投与:アセチルコリン受容体に対する抗体産生を抑制するのが目的。但し、吸引(誤嚥)性肺炎の除外が必要。
・胸腺腫の外科的摘出(胸腺腫に随伴する重症筋無力症の場合)。
●予後
○吸引性肺炎がない場合は、内科的管理に対する反応は良好である。
○以下の場合は予後が悪い。
・重篤な吸引性肺炎。
・持続性巨大食道症。
・急性の劇症型重症筋無力症。
・基礎疾患として腫瘍がある場合。
※抗コリンエステラーゼ薬療法によって、大部分の動物で筋虚弱は制御可能である場合が多いが、巨大食道症に関しては不確定(不確実)である。
※診断後、平均6.4カ月後に多くの犬で臨床的寛解期に入る。
※アセチルコリン受容体抗体濃度と重症度には相関関係はないが、個々の動物で疾患の進行や寛解と相関する。
文責:獣医師 藤﨑 由香