<今日のワンコ>
症例1:8歳のフレンチブルドック、避妊雌。元気・食欲低下を主訴に来院。レントゲン検査にて球状心陰影を確認。エコー検査で心嚢水貯留が見つかる(心嚢水とは、心臓とその心臓を包む薄い膜である心嚢の間に貯まった液体のこと)。心嚢水を抜去して詳しくエコー検査を実施したところ、右心室壁に腫瘤を発見。
症例2:12歳の小型雑種犬、雄、以前から僧房弁閉鎖不全症を他院にて治療中。チアノーゼと呼吸困難を主訴に来院。心源性肺水腫を疑いレントゲン検査を実施したところ、右心拡大を確認。エコー検査にて右心室壁に腫瘤を発見。
○犬も猫も心臓の腫瘍は稀といわれているが、今回、2症例続けて心臓の腫瘍と診断した。
<心臓の腫瘍>
・血管肉腫:犬において心臓腫瘍の約70%が血管肉腫との報告や、心膜腫瘍の40%以上が血管肉腫だったとの報告がある。右心房は、血管肉腫の発生部位としては脾臓、皮膚に次いで3番目に多い。
・リンパ腫:猫の心臓腫瘍で最も多いのがリンパ腫である。全身型リンパ腫の一部として認められることが多い。
・ケモデクトーマ(非クロム親和性傍神経節腫):血液中の酸素、二酸化炭素濃度およびpHを感知する組織である大動脈体および頸動脈小体の腫瘍である。多くみられるのは心基部に発生する大動脈体腫瘍で、ときに心室あるいは縦隔に発生することもある。慢性的な低酸素血症が病因に関与するとの報告があり、その報告によると短頭種で罹患しやすい傾向がある。
・その他:線維肉腫、横紋筋肉腫と診断された報告がある。
・症状:呼吸困難、チアノーゼ、虚脱、嘔吐、嗜眠、体重減少などさまざまな症状がみられる。胸水貯留や心嚢水貯留も多くの症例で認められる。
・診断:レントゲン検査においてほとんどの症例で心陰影の拡大が見られる。ある研究では約半数で肺水腫および胸水貯留を伴っていたとの報告がある。心エコー検査では80%以上の症例で心嚢水の貯留が見られ、その半数以上で心タンポナーデがみられたとの報告もある。心嚢水の細胞診で診断ができる場合がある。
・治療:外科手術は浸潤性の性質をもつため困難であることがほとんどである。ケモデクトーマでは心膜切除術により生存期間の延長が望める。内科的に治療された犬の生存期間中央値は4ヶ月であったのに対し、心膜切除術を実施した犬の生存期間中央値は22ヶ月である。血管肉腫の場合、ドキソルビシンを基本とした化学療法により生存期間の延長とQOLの向上が期待できる。補助的な化学療法を受けた犬の生存中央期間が6ヶ月であったのに対し、化学療法を受けなかった犬での中央期間2ヶ月であった。
○小型犬では僧房弁閉鎖不全症、猫では肥大型心筋症が多発する話は以前にも何度もしてきているが、今回の2症例のように珍しいと言われる心臓腫瘍が見つかる場合もあるので、さまざまな可能性を考えて診療・診断しなければならないと改めて考えさせられた。
文責:獣医師 藤﨑 由香