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今週の症例(2013年4月5日)No.9:ミニチュアダックスフンドの炎症性結直腸ポリープ

[症例]:11歳のミニチュアダックスフンド、去勢雄。
[主訴]:約1ヶ月前から続く軟便と血便・粘液便、しぶりを主訴に来院。
[診断と治療経過]:直腸検査にて複数のポリープを触知して確認。病理組織学的検査を実施しようとしたが、直腸の炎症が重度であることから穿孔のリスクを伴うと判断し、ステロイド、サラゾピリン、抗生剤、止血剤による内科療法を実施。治療に反応して症状がやや改善した第6病日に生検のためポリープの一部を切除した。病理組織学的検査の結果「潰瘍形成を伴う重度の化膿性直腸炎」と診断された。現在内科療法を継続し経過観察中。

[ワンポイント講義]:
国内のミニチュアダックスフンドに認められる「炎症性結直腸ポリープ」は近年増加傾向にある。中高齢のミニチュアダックスフンドの雄に好発し、他の犬種での報告はほとんどない。免疫の関与が示唆されている。
診断には病理組織学的検査が必要であり、重度の好中球浸潤を特徴とする非腫瘍性ポリープで、病変は結直腸の粘膜に限局する。一般的に粘膜下織~筋層は正常である。多発性であることが多いが、中には単一の大きなポリープを形成する場合もある。稀に炎症巣の一部が癌化していることがあるので多発性の病変でも複数個所の病理組織検査が必要である。
近年の研究では、抗原を認識するパターン認識受容体(PRR)やサイトカインの遺伝子発現量が有意に増加しているとの報告や、病変の形成にはマクロファージから産生されるIL-8が重要な役割を担っている可能性を示唆する報告などがある。
免疫抑制療法によりポリープの縮小や臨床症状の改善が期待できる。補助的に抗菌薬、整腸剤、食事療法などを行う。免疫抑制療法を短期間で中止すると多くの場合再発することから、通常は数ヵ月以上の投薬が必要となる。ある研究では治療の反応率は80%で、そのうち40%は肉眼的なポリープの消失と臨床症状の改善が認められた。内科療法への反応が認められないか、または不十分な場合には外科療法を実施する。多くの場合は複数ポリープが認められることから、経肛門アプローチによる直腸粘膜引き抜き術あるいは直腸全層引き抜き術が行われる。しかし、免疫が関与する疾患と考えられているため病変をすべて切除したとしても、術後に再発する可能性がある。また、術後に排便障害やしぶり、血便などの臨床症状の悪化がみられることもある。ほとんどの場合数週間以内に改善するが、排便障害が持続する場合や縫合部位の裂開や感染など重大な合併症が発生するリスクがある。ポリペクトミー(内視鏡下高周波治療)や高周波凝固のひとつであるAPCが獣医領域でも応用されたとの報告もある。
内科療法への反応が見られる場合は予後良好であるが、長期的な投薬が必要になる症例も多い。炎症性ポリープの治療中に腺腫や腺癌が発生したとの報告があるので治療反応が乏しい場合やポリープの増大が認められる場合には再度生検が必要になる場合もある。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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