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今週の症例(2013年4月25日)No.10:子猫の皮膚糸状菌症

[症例]:1.2kgの雑種で雄の保護子猫。耳と頚部を主体に全身的な脱毛を主訴に来院。
[診断]:ウッド灯検査陽性だったことから皮膚糸状菌症を疑い、局所の消毒と抗菌剤の内服を開始。後日、真菌培養検査も陽性であることを確認。Microsporum canis感染症が疑われた。2週間の投薬で現在脱毛などの症状は著しく改善し、経過観察中である。保護者も本症例を飼うようになって皮膚病を患い、皮膚科で真菌症と診断された

[ワンポイント講義]
皮膚糸状菌症の原因となる最も一般的な真菌はMicrosporum canis、まれにげっ歯類や牛・馬、汚染された環境から感染するTrichophyton spp.や土壌中のMicrosporum gypsem、ヒトの足白癬の原因となるTrichophyton rubrumなどがある。感染した猫との接触もしくは汚染された環境から感染する。胞子は条件によっては何カ月も生存する。
胞子が被毛に接しても感染が成立するためには多くの因子の関与が必要である。健康な無傷の皮膚に侵入することはできないので、外傷やノミ・ダニなど寄生虫の刺激、皮膚がふやけた状態になることで感染が成立する。免疫が発達していないの子猫や免疫が落ちている状態の個体(高齢、栄養不良、外部寄生虫、免疫抑制状態)で認められる。短毛種と比較して長毛種の方が多い。
症状はさまざまで、掻痒は全く認められないものから激烈な掻痒を伴うものまである。痂皮や紅斑を伴う脱毛で急速に全身へ拡がる。
診断…a.ウッド灯検査(253.7nmの波長の紫外線ライト)でMicrosporum canaisの50%はアップルグリーンに蛍光発色する。陽性の場合は糸状菌の感染が示唆されるが、陰性でも皮膚糸状菌症を否定できない。b.毛の直接鏡検下で胞子を確認する。c.真菌培養は最もスタンダードな方法である。多くの場合5~10日で陽性となるが最高で21日の観察が必要なケースも有る。d.皮膚バイオプシーを実施して病理組織学的検査を行うことで約80%確定診断ができる。
免疫学的に問題がない猫の場合には数カ月(60~100日)で自然に消散する。しかし、人獣共通感染症で容易に拡散するため早期の治療を実施し、感染を最小限に抑える必要がある。全身感染の場合は毛刈りの実施が推奨される。抗真菌薬の内服と局所療法を実施する。シャンプーを実施する場合は表皮がふやけた状態では感染が起こりやすくなるため、素早く乾燥させることが重要である。
治療と共に環境の改善が重要になる。猫の被毛や鱗屑が溜まりそうな場所は主要な感染源となる。胞子は容易に空中に飛び長時間感染能力がある。集団飼育の場合が隔離が必要である。集団で1例でも感染猫が出た場合、全ての猫が感染していると考えた方がいい。症状はないが糸状菌を保有するキャリアとなることもあるので注意すべきである。ある実験では1:10または1:100の家庭用漂白剤で効果的な作用があるとの報告や0.5%次亜塩素酸ナトリウムで殺菌できるとの報告がある。浄化するには積極的な清掃を数カ月続けなければならない。

文責:獣医師 藤﨑由香

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