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今週の症例(2013年12月3日)No.29:皮膚の血管肉腫-細胞診の重要性が再認識された症例-

[症例]:10歳のミックス犬(ゴールデンレトリーバーとラブラドールレトリーバー)、避妊雌。
[主訴]:左後肢~下腹部にかけての浮腫と紫斑を主訴に来院した。元気消失、食欲低下。
[診断]:血小板数が32,000/μl、赤血球数が507万/μlと減少し、CRP(炎症タンパク)は6.9mg/dlと上昇。超音波検査では胸腹部とも異常を見い出せなかった。特発性免疫介在性血小板減少症、特発性免疫介在性貧血を疑い、ステロイド剤による治療を開始した。第3病日、血小板数は70,000/μlとやや増加するが、浮腫や紫斑は改善されず。この時視診にて後肢や腹部に直径1.0㎝弱の黒色皮膚腫瘤が複数確認された。第7病日、元気食欲は改善傾向にあるものの、血小板数は依然66,000/μlと増加せず。第10病日も血小板数65,000/μlと変化ないことから、皮膚の血管肉腫を疑い皮膚腫瘤の細胞診を実施した。細胞診の結果、血管肉腫と診断された。再度超音波検査を実施するが他臓器の異常は確認できず。現在、ステロイドを漸減し、食欲増進目的(低用量)で服用している。

[ワンポイント講義]:
血管肉腫は血管内皮を起源とする腫瘍である。高齢犬(平均年齢10歳)の雄に多く見られる。ジャーマンシェパードとゴールデンレトリーバーが好発犬種である。
血管内皮由来の為、あらゆる臓器で発症の可能性はあるが、50%が脾臓、25%が右心房、13%が皮下組織、5%が肝臓、8%がその他の臓器または多臓器で発生する。非常に侵襲性が強く、多く場合は初期に浸潤して転移する。血管肉腫と診断された症例の多くは止血異常や血小板減少症、貧血が認められ、約半数が播種性血管内凝固(DIC)と診断される。
皮膚原発の血管肉腫では他の血管肉腫と異なり、予後は比較的良い。皮膚の血管肉腫で外科的切除を実施した症例の中央生存期間は780日である(Cutaneous hemangiosarcoma in 25 dogs.J Vet Intern Med8:345-348,1994)。他の血管肉腫では約20~60日と非常に短い。
他臓器の血管肉腫から皮膚へ転移する可能性があるため、皮膚原発の血管肉腫なのか他臓器の血管肉腫の皮膚転移なのかは予後を大きく左右する。このためステージ分類が重要になる。本症例の胸腹部超音波検査では明らかな腫瘍性病変を確認できていないが、皮膚の血管肉腫が多発的であることや血小板数の減少など全身状態の悪化を考慮し、(皮膚以外の臓器からの皮膚への転移を念頭に)慎重に経過をみている。皮膚原発の血管肉腫の場合、止血異常が発生するのは212頭中11頭(約5%)、そのうち6頭はのちに全身性血管肉腫と診断されている(Evaluation of hemostatic defects secondary to vascular tumors in dogs.JAVMA 198 :891-894 1991)。
本症例の皮膚に見られた”血豆”様の病変は当初、紫斑の範疇と認識していた。(周囲のいわゆる”紫斑”とは異なり、色はよりどす黒く丸い形状であった)。通常、紫斑を細胞診することはないが、「思い込まず(先入観を捨てて)」(何でもかんでもではないが)迷ったら同検査の実施の必要性を再認識し、そしてまたまた学んだ(⑤は院長談)。

文責:獣医師 藤﨑 由香

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