[症例]:13歳、雌のラブラドールレトリーバー、35㎏。
[主訴]:口臭と食欲低下を主訴に来院。
[診断]:舌根部に黒色の腫瘤を確認。麻酔下で細胞診と病理組織学的検査のための採材を実施。細胞診によってメラノ―マが強く疑われ、念のため組織検査を行った。その結果リンパ管浸潤を伴う悪性黒色腫(メラノーマ)と診断した。また胸部レントゲン検査で直径1.2~1.5㎝の肺転移を疑う陰影を確認。年齢と既に肺転移している可能性があることから外科的切除を断念し、現在経過観察中である。
[ワンポイント講義]
①口腔内腫瘍は犬猫の腫瘍で4番目に多い。犬では全腫瘍の6%、猫では全腫瘍の3%になる。飼い主が腫瘤に気付き来院することが多いが、咽頭付近に発生した場合は発見が遅れる。症状としては口臭、飲食時の出血、食欲不振、嚥下困難、食事を口からこぼす、開口時の疼痛、咀嚼筋の委縮などが見られる。
②確定診断には病理組織学的検査が必要になる。またステージ分類を行う為にレントゲン検査、リンパ節の腫大が認められる場合には細胞診を実施する。局所リンパ節や肺に転移しやすい。また骨への浸潤を伴うことも多い。
③犬の口腔内腫瘍は悪性黒色腫、扁平上皮癌、繊維肉腫、骨肉腫が多い。猫では扁平上皮癌、繊維肉腫が多い。
④悪性黒色腫は犬の口腔内腫瘍では最も多い。皮膚の黒色腫は良性が多いのに対し、口腔内ではほとんどすべてが悪性である。歯肉、口唇、舌、軟口蓋に認められる。平均年齢11.4歳と高齢に多く、好発犬種はコッカースパニエル、ゴールデンレトリーバーなどである。色素沈着していることが多いが、メラニン欠乏性の腫瘍もある。死亡時には約80%の症例で転移が認められるが、初診時の肺の転移は7%の症例で認められる。
⑤治療は外科手術が一般的だが、骨浸潤が多く認められるため、下顎骨あるいは上顎骨切除(片側あるいは両側)を行う症例が多い。生存中央期間は150日~318日。1年生存率35%以下である。腫瘍の大きさや場所が予後に関与するが、直径2.0㎝以下の場合は中央生存期間511日に対して、直径2.0㎝以上の場合は164日と短い。また吻(くちびる)側に発生している方が予後は良い。しかし、再発率も高く下顎切除術を実施した症例の22%、上顎切除術を実施した症例の48%が再発するとされる。手術と併せて化学療法を補助療法として実施することで生存期間延長の可能性がある。また、放射線治療に比較的よく反応し、反応率は83~94%や約70%の症例で完全寛解が得られたという報告がある。1年生存率は36~71%、中央生存期間は4~12ヶ月との報告がある。しかし、獣医領域では放射線治療を実施できる施設が限られていることや全身麻酔がその都度必要になることから普及していないのが現状である。その他免疫療法が研究されている。また、口唇の黒色腫は中央生存期間25ヶ月である。舌の黒色腫は摘出手術を実施した症例で中央生存期間が19ヶ月と他の部位の口腔内悪性黒色腫と比較して予後が良い。
⑥口腔内腫瘍は発見が遅れがちである。他の腫瘍でも言えることだが早期発見できるかどうかによって予後が大きく異なる。日頃から歯磨きなどの口腔内ケアを行うことで歯石、歯肉炎の予防になるだけでなく、口の中を触らせて(観察させて)くれるように訓練(躾)しておくことが重要である。
文責:獣医師 藤﨑 由香