(藤﨑):今まで「犬や猫の人とのちがい」について紹介してきました。犬や猫に秘められた能力や体のつくりについてお話させてもらいました。今回は少し趣向を変えて犬や猫と一緒に過ごすことでもたらされる「癒しの効果」について、アニマルセラピーも交えて話したいと思います。
(戸高アナ):確かに不思議な力ですよね。どんなに仕事で疲れて帰ってきても、玄関で出迎えてくれると疲れが吹き飛びます。
(藤﨑):この能力をうまく利用したのがアニマルセラピーです。国際的には動物介在療法と呼ばれ、患者の身体的、精神的、社会的機能回復を目的として取り入れられています。その歴史は古く、1792年にはすでに行われていたようで、日本でも近年取り入れられるようになってきています。
(戸高アナ):では、犬猫を飼っていると常にアニマルセラピーを受けているのと同じ効果があるのでしょうか。
(藤﨑):アメリカでの約30年前の研究ですが、人が人に慣れた犬を撫でたときの人体の変化を調査した研究があります。血圧が下がり、脈拍数が減り、呼吸がより規則的になり、筋肉の緊張が緩んだとの結果が出ています。これらはリラックスした状態やストレスが軽減した際にみられる変化と同じです。もちろん犬が嫌いな人の場合には違う結果になるかとは思いますが、犬との生活がストレス軽減につながる医学的な証拠ではないでしょうか。
(戸高アナ):ただ側にいるだけでストレス軽減になるのですね。
(藤﨑):別の研究ではストレスに関連するコルチゾールというホルモンを測定しています。ストレスがかかるとコルチゾール値が上昇しますが、数分から数十分という短時間の触れ合いでもコルチゾール値を下げる効果があるとのデータがあります。また、ストレスだけではありません、オーストラリアの研究では、喫煙や高脂肪食など生活習慣が不健康な人でも血圧やコレステロール値の低かった人にはペットを飼っている人が多かったという報告もあります。アメリカの心臓病の医学雑誌に掲載された記事では、心臓発作で入院した患者の退院後を追跡調査すると、退院1年後の生存率でペットを飼っていない人に比べて飼っている人の生存率が高かったとの報告があります。
(戸高アナ):ストレスが寿命と関連するということでしょうか?
(藤﨑):ストレスと心疾患の関連は研究されています。ロンドンでの研究で心理的ストレスを感じている男性は心疾患を患う確率が83%も高く、女性は51%高いという結果や、日本でも40~79歳の73000人を対象とした調査で日常的にストレスを感じている人は心臓発作や心疾患が原因で死亡する確率がより高く、ストレスを抱えている女性はストレスを抱えていない女性の2倍以上、心疾患で死亡する確率が高いという結果でした。
(戸高アナ):ストレスが心疾患と関連する、つまり寿命と関連するというのはすでに明らかにされているのですね。
(藤﨑):ストレスについての研究は、ストレスが人それぞれで要因や程度が違うためしばしば評価が困難で、これらの研究すべてを信じていいのかというとまた意見が分かれるところではありますが、犬猫を飼うことでリラックス効果やストレス軽減効果が期待でき、それが健康にもつながる可能性があるということは言えるのではないでしょうか。
文責:獣医師 藤﨑 由香