(藤﨑):今日は犬猫のリハビリテーションについてお話します。人では医師や理学療法士、作業療法士が中心となって行われておりその歴史は18世紀に遡るようですが、獣医療では近年になってようやく注目され始め、取り入れられつつあります。日本ではサラッブレッドのリハビリテーションが1960年代に始められ、小動物臨床では2007年に日本動物リハビリテーション学会が発足したばかりのまだ歴史の浅い分野です。例えば、M.ダックスの椎間板ヘルニアが多いという話題はもうみなさんご存知と思いますが、内科療法、外科手術いずれの治療法を選択した場合でもリハビリが必須です。
(戸高アナ):犬猫のリハビリテーションというと馴染みがないですが、具体的にどのように行えば良いのでしょうか?
(藤﨑):まず運動療法では関節可動域改善、炎症や浮腫の改善、患肢の使用促進、筋肉量の維持などがあります。関節可動域運動では外傷や手術などで可動域の減少を改善する目的で伸張運動、いわゆるストレッチを行います。外傷などで一定期間以上患肢を使わない状態で過ごすと自然と関節の動く範囲が限定されてしまいます。これには筋肉や腱、靭帯など関節周囲の多くの組織が関わっており、疾患や関節の状態によってもやり方が異なります。必ず獣医師に指導してもらってから実施していただきたいのですが、ポイントは無理せずにゆっくりと繰り返し行うことです。
(戸高アナ):ストレッチというと馴染みがありますよね。伸ばす方向など間違えてしまうと痛みも出てきてしまいそうですし、少し難しそうですね…これは専門家の指導に沿って行った方がよさそうですね。
(藤﨑):他にも筋力維持運動、これはいわゆる筋トレと呼ばれるものと同じですが、筋力の強化だけでなく筋機能改善を目的に行います。例えば椎間板ヘルニアなどで麻痺が起こってしまった場合ではふらつきが認められます。起立訓練はすべらないマットの上で正しい姿勢で立つことから始めます。筋肉は収縮する筋と伸展する筋のバランスでスムーズな動きが可能となるため、筋不均一を是正したり代償機能を発達させていきます。初めは体を支えながら行いますが、次第に支えを弱くしていき患肢に負重させていきます。足を動かすことができるようになると強調運動できるように促します。当院では包帯などを使って補助具を作り家庭でも積極的にリハビリを実施してもらうようにしています。
最近は動物のリハビリ専用の道具なんかもあります。ピーナッツのような形をしたバランスボールをお腹の下に入れて体重負荷を軽減して起立訓練を行う方法もあります。動物は自らリハビリしてくれないため、動物をコントロールして飽きさせずに協力してもらうようにする必要があります。このため食事を用いてリハビリをすることで動物が率先して訓練に協力するようになります。
(戸高アナ):うちの子はマッサージすると気持ちよさそうにしますが、これはどうですか??
(藤﨑):筋緊張の低下、疼痛の軽減、不随意運動のコントロールが期待できます。全身をマッサージして筋緊張を低下させてから運動療法を実施すると効果的に行うことができますし、飼い主さんとのスキンシップにもなります。
(戸高アナ):初めにマッサージするといいのですね。始めに体を触って状態を把握するという意味でも効果がありそうですね。
(藤﨑):他にも運動療法はあります。水泳や水中トレッドミルを行った映像は見たことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?浮力が体重負荷を軽減し、水圧により血流改善や浮腫疼痛の軽減、筋緊張の緩和が得られるとされ、人ではよく行われている方法ですが動物ではあまり普及していません。犬の体型に合わせて水深を選択する必要があるためです。膝や肘までの水深では体重負荷は変わらず水中で行う意味がなくなってしまいますし、股関節まで水深がきてしまうと後肢が浮き気味になってしまいます。その子の体型に合わせて調節する必要があります。また毎回毛を乾かす必要があり、そもそもリハビリは毎日繰り返し行うことが必要なためうまく利用すれば有効な方法であることは分かっていますが、なかなか適用症例は限られてしまいます。また意外と犬でも泳ぐのが下手で水を怖がる子も多いです。
(戸高アナ):犬かきで泳ぐのが上手なイメージですが、怖がる子も確かにいますね…そして泳がせるわけではなく、水中で体重負荷を減らして歩かせたいということなんですね。
(藤﨑):運動療法だけではありません。身体に温熱や寒冷、電気刺激を加える物理療法もあります。ピッチャーが試合終了後に肩を冷やす姿を見たことがありませんか?急性炎症を抑えるために冷やしています。術後など患肢の炎症には保冷剤で冷やすことが有効になります。一方関節炎などの慢性炎症では逆に温熱療法が有効になります。散歩前に行うと効果があります。
(戸高アナ):これも家で簡単に出来る方法ですね。しかし凍傷、やけどは気をつけてくださいね。
(藤﨑):他にもレーザーや超音波治療機による治療法もあります。しかしいずれの方法を行う場合でも人も動物も負担なく毎日続けられるというのが大事になります。その子の生活環境に合わせたリハビリを行うといいですね。
文責:獣医師 藤﨑 由香