(藤﨑):今日は犬猫の内視鏡検査についてお話します。人は健康診断で胃カメラをしますよね。胃カメラというと絶食しないといけないし、なんといっても苦しいというイメージが強いですよね。最近では経鼻内視鏡検査といって細い内視鏡を使って苦痛なく行える方法や、今までは内視鏡を入れることができなかった小腸を検査する目的でカプセル状のカメラを飲み込み、カメラが発信する画像を記録装置へ転送して読み取るという方法もできるようになっています。
(戸高アナ):犬猫でも内視鏡検査を行うことはできるのですか?
(藤﨑):犬猫では先程のカプセル型は実施できませんが、内視鏡検査を行うことはできます。
他の多くの検査でも同じですが、犬猫はもちろん口からカメラが入ってくるのを我慢することなど不可能なため全身麻酔が必要になります。
(戸高アナ):どういった時に内視鏡検査を行いますか?
(藤﨑):麻酔が必要になるため人のように健康診断で実施するということはありません。また日本人は胃がんが多いとされ、「罹患率が最も多いがんで死亡率も肺がんに次いで多い。年間5万人が胃がんで亡くなっている」というデータがあります。このため健康診断に胃カメラが入っているわけですが、一方の犬猫では胃がんは少なく、嘔吐など消化器症状を示した時にはまずは他の疾患から疑います。そのため犬猫で内視鏡検査というと「異物の摘出」で使用されることが多いです。
(戸高アナ):異物というとやはり動物ならではですね… どういったものを取り出した例がありますか?
(藤﨑):多いのは鶏の骨、梅や桃などの種、とうもろこしの芯、アイスの棒、おもちゃ、靴下、石ですね。飼い主さんのブローチを飲み込んでしまったり、ピアスを飲み込んだりと思わぬ物を飲み込んでいる子もいました。咥えているとこを飼い主さんが見つけ、取り返そうとしたら慌てて飲み込んでしまったというような話を聞くことも多々あります。
(戸高アナ):直後だったらお腹を切って取り出さずに、内視鏡で取り出すことができるのですか?
(藤﨑):胃の中にある間には取り出すことができます。胃から流れていってしまい、腸で詰まってしまっているとこれはもうお腹を開けて手術するしかありません。また飲み込んだ物によっては内視鏡で取り出すと胃や食道を傷つけてしまう可能性があり取り出すことができない場合もあります。
(戸高アナ):なるほど、麻酔は必要になるということですが、手術よりは内視鏡で摘出できた方が負担は少ないですよね…
(藤﨑):でも内視鏡が使われるのは異物だけではないのです。人と同じように繰り返し嘔吐が見られるような場合には内視鏡検査を実施して胃の中を確認することがあります。また特に犬で多いのがリンパ管拡張症と言われるような病気や炎症性腸炎という普通の腸炎の治療ではなかなか反応しないようなタイプの腸炎の診断で内視鏡を利用するケースや、猫で多い消化管にできるタイプのリンパ腫を診断するケース、M.ダックスに多い直腸ポリープの検査のために肛門から内視鏡を入れるケースがあります。
(戸高アナ):内視鏡で見ることで診断できるのですか?
(藤﨑):見ることはもちろんですが、見るだけではなく鉗子と呼ばれる長い内視鏡用の道具があり、それを使って腸の一部分を採取します。その組織を病理検査することで正確に診断するような方法を取ることができます。残念ながら内視鏡検査には届く範囲に制限があり腸全体を見るというわけにはいきませんが、胃に続く十二指腸あたりまでは見ることができます。また場合によっては肛門から入れて大腸の様子を検査することもあります。他にも気管支鏡といって細い内視鏡を入れて呼吸する際の喉の動きを調べる検査ができたり、食道が狭くなってしまう病気の際には内視鏡で見ながら圧をかけていき拡張させる治療ができたりとさまざまなことに応用が可能です。なるべく負担をかけずに治療をしたいという飼い主の希望に答えたり、原因を病理学的に調べて有効な治療法を模索するためには今では内視鏡検査はなくてはならない技術になっています。
(戸高アナ):人の数分の1~数十分の1という小さい犬猫でも内視鏡検査できるなんてすごいですね。内視鏡で摘出できるとしてもみなさん異物誤食は防ぐことができます。くれぐれも犬猫の届くところに口にしそうなものは置かないように気をつけましょう!
文責:獣医師 藤﨑 由香