以前、NHK本局から電話取材を受けたことを紹介しましたが、ようやく放送されました。ネットで検索すれば、いつでも見ることができます。以下の文章は、その取材のために準備していたものです。参考になれば幸いです。
1.犬が人よりも比較的にマムシ毒に強い理由
▼まず最初に、「マムシに咬まれてたら、人間は死ぬ」と怖がられていますが、咬まれた人全員が死亡する訳ではありません。実際は年間2000~3000例の咬傷被害があるそうで、うち死亡するのは10人程度ということです。100人に2~3人の確率ですから、やはり怖いことに変わりはありません。
▼一般に「犬はマムシに咬まれても死なない」と言われます。私も年に1~2例のマムシ咬傷を経験しますが、マムシに咬まれて死んだ症例は1例もありません。
▼これはマムシだけに限ったことではないと考えられているのですが、スズメバチやムカデの毒にも言えることです。犬は(猫もですが)平熱が38~39度と、人間よりも2~3度も高めです。なおかつマムシに咬まれた直後には興奮してもう少し(1度くらい)上がっていることが予想されます。この2~3度が重要と考えられます。マムシ毒には主なものとして10種類近くありますが、その多くは咬まれた犬の組織内で活性化されるたんぱく分解などの酵素と、神経症状誘発や出血傾向を促進する毒素があります。これらの酵素などの活性化で、局所の腫脹や組織の壊死、出血などの症状が誘発されます。マムシは自ら攻撃することはほとんどないと考えられています。犬が草むらなどで臭い嗅ぎや、排泄をしているときに傍にいるマムシを刺激して咬まれるのですが、咬まれる場所は決まって鼻先をはじめとした顔面と、足先です。話が戻りますが、犬がマムシ毒に強い理由は、これらの酵素活性が体温の影響を強く受けることから、体温が人より2~3度高い犬の場合、酵素の活性が低くなり、症状が人よりも軽いということのようです。
2.なぜこの柴犬は助かったのか
▼顔面の腫脹は顕著ですが、通常のマムシの咬傷ではこの程度は腫れます。この柴犬が腫れがとくに余程ひどいというのではありませんから、助かったのでしょう。このような犬が来院したら、我々は抗生剤や消炎剤、止血剤などを投与します。少しぐったりしているようなら静脈点滴や、抗ショックの目的でステロイド剤の投与を検討します。病院に行くことなく自然治癒している犬も少なくないと考えられます。
▼抗血清の話ですが、我々は使用しません。使わなくても死ぬことはないからです。人ではウマの抗血清を投与する場合があります。しかしこの使用に関しても議論がないわけではないようです。ウマの抗血清を投与すると、そのウマの蛋白に対しての抗体が人の体内で作られます。このウマに対する抗体が問題で、同じ人が再度マムシに咬まれるとアナフィラキシーショックを起こすということです。一度マムシに咬まれるとマムシ毒に対する抗体が作られるので、2度目には症状が軽くなることが多いそうです。われわれの経験でも2度目に咬まれた犬の症状は1度目に比べて軽いようです。