このテーマは簡単そうでやや複雑な問題です。放送内容の詳細をここに掲載する準備はできていたのですが、不手際で今となりました。申し訳ありませんでした。
犬や猫の多飲・多尿はよく遭遇する臨床症状の一つであり、多くの疾患と病態が存在する。最近になって解明されたメカニズムも少なくないが、その病態を知ることは治療や管理をする上でも重要と考えられる。
●物言わぬ犬猫では日頃の行動等の変化を観察す事が重要である。
●その中でも多尿・多渇・多飲を呈する場合には、生命に関係する重要疾患が多い。
●多くの疾患はまず多尿が起こって、その後に多渇→多飲となる。
●尿量をコントロールするメカニズムは、①尿を濃縮する腎臓の機能性残存ネフロン数、②抗利尿ホルモン(中枢性・末梢性)、③腎臓の尿細管での濃度や浸透圧勾配などによる。
●正常の飲水量は30~50ml/kg/日が目安で、100ml以上では多尿を疑う。
●多尿症の尿量は50ml/kg以上が目安。
●多尿・多渇・多飲を呈する主な疾患とそのメカニズム
①腎不全:機能性ネフロン数の減少により、残存ネフロンの糸球体濾過率が代償性に増加する。尿細管流量が増加すると再吸収される尿素とナトリウムは減少し、結果的に浸透圧性利尿が起こる。
②糖尿病:正常ではほとんど再吸収されるグルコースのような溶質が糸球体濾過液に過剰に存在すると、近位尿細管からの再吸収が阻害される。これにより、異常に増加した濾過液がネフロン遠位の水分再吸収力を圧倒してしまう。
③子宮蓄尿症:最も一般的な原因菌であるE. coli のエンドトキシンが、腎尿細管レベルでADH の作用を妨害する。
④高Ca 血症:血清Ca 濃度の上昇が、腎尿細管レベルでADH の作用を妨害する。
⑤肝不全:BUN の産生障害に続発した腎髄質の高浸透圧性の喪失。その他、低K血症、コルチゾルの代謝障害による。
⑥クッシング症候群(副腎皮質機能亢進症):続発性の可逆的なADH 欠乏症(中枢性尿崩症)による。
⑦腎盂腎炎:腎盂の感染や炎症が腎髄質の対向流メカニズムを破壊する。これにより、等張尿、多尿、続発性の多飲、最終的には腎不全が起こる。
⑧低K血症:低K血症は腎尿細管でADH の作用を妨害し、可逆的な腎性尿崩症を引き起こす。
⑨アジソン病(副腎皮質機能低下症):低Na血症は腎髄質の濃度勾配を低下させ、尿濃縮能が失われる。
⑩医原性多尿症:グルココルチコイド、利尿薬、抗痙攣薬など。
⑪閉塞性尿路疾患の回復期:閉塞に続発するBUN の上昇が著しい浸透圧利尿の原因となる。
⑫尿崩症(中枢性・腎性・心因性):ADH の欠乏(中枢性尿崩症)、または腎尿細管細胞がADH 抵抗性(腎性尿崩症)の場合は、ネフロンの近位で産生された低張濾過液がそのまま遠位尿細管と集合管を通過し、大量の低張尿が産生される。
●飼い主の日頃の注意点
①若くて健康時の飲水量を把握しておく。
②ペットボトルから継足す形で1日の飲水量をチェックする。
③トイレ(排尿)の回数や量、色調、臭い等をチェックする。
④健康診断や健診を行う。